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zoom RSS 『チーズの科学』を読んで

<<   作成日時 : 2017/05/13 10:05   >>

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この前「牛乳は体に悪い」というのを読んだから、今回は比較的逆のものを頼んだ。牛乳から始まって、乳製品全般を何か特別悪者のように扱うのは単純馬鹿の走りがちな道だ。副題に「ミルクの力、発酵・熟成の神秘」とあるが、「牛乳は体に良い」という論評にしろ、「牛乳は体に良い」という論評も出来るはずである。世の中、正反対の極が程よくまじりあってバランスを保っている。いい例が砂糖と塩だ。片一方の極だけにとらわれているような者の意見というのはまず参考にならないことがほとんどである。特に身体、生命に関する話には必ず正反対の事象が同居して現実を構成している。

ブルーバックスから2016年11月に出版された。筆者の農学博士の斉藤忠夫氏は1052年生まれ。チーズばかり食べているからか、ずいぶん血色がいいみたいだ。チーズを大別すると、ナチュラルチーズとプロセスチーズがあるが、プロセスチーズは製造後に完全殺菌し長期保存を可能にした静的なチーズなので菌類は一切含まれておらず、あまり深い味わいはしないようである。かといって、細菌感染の恐れがあるのでナチュラルチーズは一切食べないという人もいる。ちょうど有機野菜は寄生虫に当たる恐れがあるので、農薬で殺菌した野菜しか食べない人がいるのと同じだ。心理的要因により、プロセスチーズのほうがうまく感じられる場合も多くありそうだ。

全然気が付かなかったが、チーズというのは熱すると溶ける唯一のタンパク質だとある。そういえばすべてのタンパク質は50℃以上になればまず凝固する。しばしばピザやグラタン料理を眺めているにしては全く考えもしなかった。牛乳でも山羊乳でも母乳でも熱すれば凝固するのに、原料は同じでもチーズになれば固まらない。

ヨーロッパではチーズの消費量が多いというが、平均値でいうと、最も多いフランスでも年間26キログラムと、日本の10倍強でしかない。一日当たり70グラムで、6Pチーズ1個が15〜18グラムだから、フランス人でも平均すると6Pチーズ一日4個か5個分にしか過ぎない。

チーズの発見は、搾乳の開始以降とされるが、およそ8000年前以降の西アジア(アラビア当たり)と目されている。それはおよそ紀元前13世紀以降のアラビアにラクダ行商人が誕生してからは確実であろうという。発見後、その技術はまずモンゴルへもたらされたそうだ。そうしてモンゴルではそれまでの腐敗しやすい乳を保存する目的で、長期保存に適した乾燥型の東洋型チーズを製造したという。より自然の乳に近いそうだ。ここで東洋人には乳糖不耐が多いのは乳を飲む習慣がなかったからだとする理由が根拠を欠いているということに気が付く。何しろアラブ人の乳糖不耐は78%にも上っている。メソポタミアの石板から、前3500年にはこの地域で乳牛の飼育、搾乳、何らかの乳製品の加工が行われていたことが知られている。

さらにチーズ作りはインドやチベットにも伝わった。この地域でも古くから搾乳を営んでいたからだ。西欧とは別の方法で乳を凝固させる方法は今でも引き継がれ、「パニール」や「チャーナ」というチーズ製法技術で残っているそうである。チベットのチーズは「チュルピー」と呼ばれている。

そして西アジアからギリシャやイタリアへと伝搬したのが、酵素によって乳を固める現在のチーズ製法だ。この酵素は、子牛の第4胃にあり「レンネット」と呼ばれるそうだ。インドでは牛は神聖で殺せないので、西洋式チーズは作られなかった。ここでも古くから乳を飲む習慣のあった地方の人間に乳糖不耐が多い。むしろ、肌の白いものがたまたま大人になってもラクターゼ活性を失わなかったとした方がすっきりするくらいだ。どうも乳製品を多食する地域のものに骨粗しょう症が多いなどという話も胡散臭そうで、肌の白いものが骨折しやすいといった方が本当に近いようにも思われる。骨が丈夫だから無茶をしやすいのかもしれない。どちらかというと心因的要素が大きいのかもしれない。

日本の文献に初めてチーズが登場するのは6世紀半ばのことで、意外と古く、仏教とともに朝鮮より伝来したという。当時は「酥」(そ)と呼ばれ、美容と健康の妙薬とされていた。平安末期までは貴族の高級食材として各地で製造されていたという。奈良時代には中国経由でヨーグルトやバターのような食品も輸入されていたというが、私は日本史の時間にはいつもぼーっとしていたので聞いたこともない。平安時代が過ぎ、武士政権が誕生すると衰退していったそうだ。動物性食品はダメだという仏教の影響かもしれないが、そもそも仏教伝来とともにチーズも輸入されたというのが面白い。そのまま明治維新まで国内での製造は行われなかったという。因習とはなんとも気の長いものだ。

現在チーズといえば、味の良い西洋チーズしか製造されていないようだ。しかし、チーズの原料のほうは乳牛とは限らない。よく口にすることの多いモッツァレラチーズは元来水牛の乳から作られるそうである。今作られているものは、本場イタリアのもの(モッツァレラ・ブファラ)を除き、多くは牛乳を原料としたものらしい。日本人の口にも合いやすいフレッシュチーズの分類に入るものは、このほかに、カッテージやクリームが有名だが、ドイツなどではヨーグルトに似たクワルクが生産量の半分近くを占めているそうだ。家畜の乳には殺菌が必要だが、昔ながらのチーズの作り方は殺菌は不要だということだ。ところが、まれに原料の乳にリステリア菌というものが含まれていたりするので、アメリカやオーストラリアでは輸入禁止になっているという。今のところ日本ではリステリア菌による食中毒事故は起こっていない。日本はヨーロッパと比べてチーズの保存が雑なので、殺菌後の乳を使ったナチュラルチーズでも雑菌が繁殖する場合があるらしい。

チーズを構成する主要なタンパク質をカゼインというが、カゼインの特徴は熟成すると苦くなるのが普通だそうだ。そうするとフレッシュチーズは非熟成チーズであるが、冷蔵庫に保存しているうちに発酵が進むのだから、これは熟成といえそうだ。クリームチーズのようなものでも苦くなるのだろうか。そういえば前に1か月か2か月たった古いクリームチーズを食べたら、端のほうが固くなっていて味も苦かったように思う。熟成チーズの場合は1週間ほどですぐ固くなる。

生乳の80%ほどがカゼインだという。カゼインとはその分子中のセリンというアミノ酸がリン酸化された「リン酸化タンパク質」のことだというが、遺伝的変異体を含めると30種類の成分からなっているという。乳の中ではカゼインミセルという状態で浮遊していて、これが光をいろいろな方向に乱反射しているため白く見えているのだそうだ。カゼインの多くは室温で凝固する。だから牛乳も凝固するのが普通であり、凝固しない仕組みを取り去れば即座に凝固する。これがチーズの製造に利用されている。牛乳にしろ胃の中に入れば強酸によってたちまち凝固してヨーグルトのようになる。それで小腸をゆっくりと流れる。だから牛乳を飲んで途端にごろごろなんていうのはまず神経性の発作であるとしか考えられない。時折胃酸で凝固するから消化されないなんていうでたらめな意見があるようだが、事実は反対で消化吸収を良くするために凝固させて、小腸の滞在時間を長くしている。さかさまが真実に見えるという単純な理由でさかさまの意見はすぐに流行する。

そうして、このカゼインタンパク質が熱に非常に強く、110℃で10分加熱しても全く変性しないそうである。これがチーズが熱に強い理由だそうだ。牛乳中のカゼインタンパクも同じだとすると、牛乳も80%は熱に強いはずだ。カゼインの独特な性質は、プロリンというアミノ酸によってもたらされる。プロリンが存在するところではたんぱく質は高次構造を形成しえないのが普通だという。その構造のため、非常に消化吸収がよく、未発達の消化器官でも要因吸収できる。また種の枠を超えて有効利用できるのもこの単純な構造のためだろう。この「アットランダム構造」が熱に強いという思わぬ副産物を生んだ。牛乳タンパクにしろ、卵や肉と比べたらはるかに熱に強い。

タンパクカゼインは世にもまれなんだそうである。餅も膨らむと延びて、一見チーズに似ているが、あれはたんぱく質ではなく、炭水化物(でんぷん)が変化して伸びているのだそうだ。加熱してもタンパク質自体は壊れないというのと伸びるというのとは違うが、それがチーズだけでヨーグルトはダメというのが面白い。これはカゼインタンパクの集合体であるサブミセル同士の架橋結合が、ヨーグルトの場合は強い酸性のために切れてしまっているからだという。

カゼインミセルは、親水性領域と疎水性領域を持つ。乳中では疎水性同士の部分がお互いに結合し、親水性の部分を外に出して小さな粒子(カゼインサブミセル)を形成している。これが100個ほど集まってカゼインミセルとなる。牛乳に含まれるカルシウムイオンは、カゼイン分子中のリン酸化セリンに結合している。
これが乳タンパクの簡単な仕組みだが、次に脂肪分の特徴が書かれている。牛乳の中にはおよそ3.9%の脂肪が含まれている。その98%以上は、「トリアシルグリセロール」である。天然自然の脂質は大体この形で存在しているから、この点はふつうである。ウシの餌である牧草にはリノール酸やリノレン酸などの不飽和脂肪酸がたくさん含まれているが、微生物の働きにより飽和脂肪酸に変化するという。しかし、動物性脂肪としてはあまり見られない、炭素のつながりが6個以下の揮発性脂肪酸(VFA)である酪酸を多く含んでいるため、蓄積されにくく、肥満の原因にはなりにくい。大変特殊な脂肪酸で、牛などの反芻獣のほかには、魚肉類の動物性脂肪にも、植物性脂肪にも含まれていない。マンマリアンならではのものであるらしい。

最後に3大栄養素の一つの炭水化物だ。牛乳の固形分では一番多い成分であるらしいが、人乳のほうが乳糖の割合は多い。多分人は牛ほど母乳を必要としないからだろう。糖分をとりすぎる恐れがなければその分甘くしても大丈夫だ。チーズを凝固する際、90〜95%がホエイ(乳清)として除かれてしまって、チーズとして残る部分にはほとんど含まれていない。しかし、乳酸菌が生きてゆくためには欠かせないものだという。多すぎても異常発酵の原因となる。雑菌がガスを発生させるそうだ。

チーズ作りにはスターターと呼ばれる乳酸菌が欠かせないというが、それほど扱いが難しいというのなら、なぜ大昔から連綿とチーズが愛好されてきたのかやや疑問に思う。案外簡単なやり方があるから偶然に発酵してチーズが作られたのではなかろうかとも思う。それにもし昔のやり方ではうまいチーズが作られないというなら、昔の人間だってまずいものは愛好しなかっただろう。人口が増えすぎたとか、動物愛護の立場から子牛を殺せなくなったという言い訳は出来そうだが。

酵母のような微生物が酸素なしで活動できるのは、動物細胞中とほとんど同じように解糖が起きるためとされる。酵母細胞中で唯一異なる点はピルビン酸が乳酸ではなく、エタノールと二酸化炭素に代わることだ。本書ではこれを「ヘテロ乳酸発酵」の副産物とし、多くは「ホモ乳酸発酵」の形をとると書いてあるが、よくわからない。ただし最初は乳酸発酵によって酸っぱくなるとあるから、確かに乳酸が作られるようだ。熟成発酵だと苦くなるから違うのだろう(熟成発酵といっても、店で買ってきてから冷蔵庫で発酵する現象しか見たことがないのでわからない)。

生乳が凝集する仕組みは5通りあるそうだ。牛乳にレモンを入れると凝固するが、この仕組みはヨーグルトを作る際の方法と全く同じだそうだ。酸により凝固が起こるというのは、牛乳を飲んだ際に胃酸でたちまち凝固する仕組みと同じだ。ところがチーズの固まる仕組みはこれ以外の4通りであって、まったく酸っぱくはならない。

@昔ながらに「子牛レンネット」を使用する方法。「標準レンネット」または「カウレンネット」と呼ばれる。生後数週間の子牛の第4胃をきれいに洗って細かく刻み食塩水に浸す。そこからキモシンという酵素を得る。一頭の子牛からは1sのキモシンが得られるそうだが、現在では貴重品の類だという。

A「微生物レンネット」。1962年に発見されたリゾムコール・プシルスなどを使用している。

B植物レンネット。イチジクの樹液の「フィシン」、パパイアの果実からの「パパイン」、パイナップルの果実からの「ブロメリン」などのタンパク質分解酵素。インドなどで昔発見したものらしいが、苦くなるせいか工業的利用は成されていないそうだ。

C発酵生産キモシン(FPC)。「遺伝子組み換えレンネット」「バイオキモシン」「遺伝子組み換えキモシン」と呼ばれ、キモシン100%のものができる。多くの国では現在主流となっているらしいが、日本、韓国、オランダなどではいまだ@の天然ものを輸入して使っているらしい。

普段飲んでいる超高温殺菌(130℃以上)の「UHT法」を用いた場合はリステリア菌も酪酸菌も芽胞菌も全滅させることは出来るが、この方法で殺菌した乳は全く凝固しなかったり凝固遅延というのが起こるのでチーズ作りには適していないそうだ。この方法で殺菌した牛乳は子牛に飲ませても消化されにくいようだ。人の赤ん坊なら、酸で固めるのでドロドロになる。牛の乳であっても、牛よりも人に適しているというのが案外だ。しかし、市販の牛乳を子牛に与えても、ちゃんと育つようである。


こうやって生乳をドロドロにしたものからさらに水分をとってナチュラルチーズができる。全部で7種類に分類するのが普通らしい。これら7種類を任意にブレンドして、乳化剤とともに混ぜ合わせ、加熱して溶かして、固めたものがプロセスチーズだ。手間暇かけているのに、殺菌消毒のため長期保存のきくせいか、こちらの方が廉価だ。しかしなぜ安いのかちょっと不思議だ。古くなって売れなくなったナチュラルチーズは廃棄処理してしまうからだろうか。もともとは戦時食として1911年にスイスで保存のきくように作られたものだというが、この辺がヒントか。プロセスチーズの主原料となるのは多くチェダーチーズやゴーダチーズだという。どちらも乳酸菌だけの熟成チーズだ。チェダーチーズは大英帝国のハードチーズで世界で最も生産量が多い。後者のゴーダチーズはオランダのセミハードチーズ。45℃以上に加熱しない形成タイプだ。チェダーもゴーダも原産地の村の名前だという。

先日調べたところでは、乳製品のカルシウム吸収率は野菜類より低いというものが多かったが、本書では逆のことが書かれている。女子栄養大の上西一弘教授の研究では、乳・乳製品からのカルシウム吸収率は約40%であり、魚類の約30%、野菜類の約19%よりも高いことになっている。その理由も、化学者らしくきちんと書かれている。マグネシウムのことは書かれていないが、乳製品の過剰摂取が骨粗しょう症を招くようなことは書かれていない。先日の本は、かなり神経質な患者群を対象とした研究で、一般にはあまり当てはまらないのかもしれない。また、この前「牛乳の脂質は、心筋梗塞・脳卒中・ガンのリスクを高める」などという話があったが、どうも乳脂肪は揮発性脂肪酸や中鎖脂肪酸も多いので、消化過程で分解しやすく、蓄積しにくいことがわかってきたという。おそらく原因は牛乳というよりも、肉類の取りすぎにあったようである。反対にカルシウムを適当に取ることはメタボを予防するという。極端な摂取も不摂取も同じように毒になるということをオーバーに表現しただけのものであった。塩は必要だが摂りすぎれば死ぬというのと同じだ。

食後にチーズをとることで虫歯が防げるというデータもあるそうだ。その効果は牛乳やキシリトールガムよりも優れているというWHOの分類にある。それどころか、すでに虫歯になった歯の再石灰化を大いに助け、自然治癒を助長することもあるようである。チーズに含まれるリン酸カルシウムが再石灰化を促すことがわかってきているそうだ。口腔内のPH低下を抑え、唾液の分泌を促すので、食後30分待たないで歯磨きをしても問題はないらしい。実際問題として30分待っていればそのまま磨かないで終わってしまいそうだから、10分程度でどうしても磨いてしまう。リン酸カルシウムからはカルシウムが吸収されないといううわさも、リン酸塩を多く含むスナック菓子や、食塩や砂糖を大量に摂取すると、腸内にリン酸カルシウムができてそのまま排出されるという話から来たものらしい。

また、カマンベールチーズの白カビや、ブルーチーズのアオカビの醸成する物質が痴呆症にも効くことが判明したとある。

チーズというとやたら輸入物を買うような傾向が昔からあったが、数年ぶりに雪印のカマンベールチーズを食べたところ、びっくりするくらいうまくなっていた。たまたまうまいものに当たったのかもしれないが、あれだとわざわざ関税がかかった外国製の苦いチーズを食べる必要もないくらいだ。うまさの秘密は水にあるのだろう。これは6Pチーズなどと比べると全然うまいのだが、コーヒーなんかだとブレンドのほうがうまい場合もあるのと比べるといまいちやり方がまずいのかもしれない。



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