バリウムの安全性

周期律表を見ていると、今話題のセシウムはカリウムやナトリウムなどと同じ「1A族」に属している。この1A族の元素を軽い順に並べると、1:水素、3リチウム、11:ナトリウム、19カリウム、37ルビジウム、55セシウム、87フランシウムの順となる。族が同じ元素の振る舞いはよく似ているから、セシウムというアルカリ軽金属はカリウムのあるところに集まる。

セシウム塩は人体に有害であって、カリウム塩が不足した場合には植物にも有害であるとされている。60年代からの核実験により、大量の放射性のセシウム137が放出された。これらのフォールアウトは現在も徐々に地上に降ってきてはいるが、大体において降雨量に比例するように、6月に多くて1月に最小値を示す。しかし雨の降っている場合は、気圧の高い冬のほうが大体において多いセシウムを含んでいる。


セシウムは人体に必要な物質なのだという説もあるが、カリウムをセシウムと置き換えたえさのみを与えた実験用のラットは数週間で総て死んだそうである。この場合のセシウムは安定核種で核崩壊をしないものだ。安定核種であれ放射性核種であれセシウムの体外への排出は、日本人の場合平均3ヶ月で半減するといわれているが、実際はそれ以上に速やかであるとも言われている。ようするに、まだ良くわかっていないらしい。チェルノブイリ事故のフォールアウトで汚染された土壌で育った羊の体内はセシウムで汚染されているのだが、わずか数日汚染されていないえさを与えただけで充分食料用として出荷できるようになるという。そこから類推して、人間の場合にも、おそらくはるかに短期間で排出されるだろうと思われている。乳幼児などの場合は、せいぜい2週間で半減する程度ではなかろうか。単純に考えて、セシウム137の体積は、カリウム40の体積の3倍以上ある(137÷3)。ということは、半径は5割も大きいことになる。人体の構成元素は水素にしろ窒素、炭素にしろ、粒の小さなものばかりだから、あまり大きなものとは結合しにくいと考えてもよいように思う。だから、重元素を蓄積しやすい人というのは普通の健康体というよりも、どこか異常体質の人間だという風にも思われる。

体内セシウム量は、春に最大で、9月頃最低値を示す。カリウムと挙動を同じくするため、筋肉量の多い春に最高値を示し、夏ばてして筋肉の落ちた夏の終わりに最低となるわけだ。ただし、カリウムの同位元素カリウム40の比率が多い人はセシウム137の量も多いかというと、必ずしもそうはなっていないという。セシウム137が崩壊して出すときのガンマ線のエネルギーはカリウム40が崩壊した場合に出すガンマ線のそれよりも弱く、光子のエネルギー的には前者の0.662MeVに対し後者は1.31MeVもある。自然界にあるカリウム40のほうが、人工のセシウム137よりも2倍強力ということになる。ちょっと詳しくいうと、セシウム137原子の93.5%はベータ・マイナス崩壊によってバリウム137mという核種になり、残りの6.5%は、やはりベータ・マイナス崩壊によりバリウム137となって安定する。バリウム137mのほうは不安定なので、核異性体転移(*)と呼ばれる崩壊によりバリウム137に変化して安定するが、このときにガンマ線を放出する。この過程については以前も述べているが、セシウムがガンマ線を出す様子は普通と大分異なっているのが面白い。本当はセシウム137はγ線など出さないのだが、カップラーメンができるくらいの間にバリウム137mがγ線を出してしてバリウム137に変わるので、セシウム137がγ線を出しているしているように見えるのだ。

(*)原子核の励起状態は、10万分の1秒以内の短い時間で終了崩壊するのが普通であるが、その励起状態が異常に長く持続するもの。mは[metastable]の略で、「準安定」というほどの意味だ。

詳しく言いついでに、カリウムについても少し詳しく書いておく。天然のカリウムには3種類のものがある。一番数が多く、自然界のカリウムのうちの93.22%を占めているカリウム39は、19個の陽子と20個の中性子からできている。次に多いのが、カリウム41で、19個の陽子と22個の中性子でできていて、これは全体の6.77%を占めている。両方合わせて、99.99%という計算になるが、これらは放射能を持っていない。残りの0.001%(正確に測ると0.00118%程度)、全体の1万分の1のカリウム40が放射性で、陽子19個と中性子21個とからなっている。人間には、体重60キログラムの男性で130グラムほどのカリウムが体内にあるそうである。一万分の1といえば、0.013グラム(13ミリグラム)だ。体内のカリウム40はこのくらいの分量しかない。40グラムのカリウム40が6×10^23個だから、13ミリグラムだと、1.95×10^20個ほどだ。個人差もあるから2×10^20個としよう。カリウム40の半減期はおよそ12億6千万年=3.7×10^16秒。原子数と半減期が分かれば、放射能=ベクレルが求まる。

... . ベクレル数=0.693(㏑2の値)×原子数÷半減期.

である。0.693×2×10^20÷(3.7×10^16)≒3.7×10^3=3700ベクレルとなる。この3700ベクレルのうちの11%くらいが電子捕獲によりアルゴン40となりγ線を放出するのだから、3700の11%で、407ベクレルとなる。89%はベータ崩壊をするのだが、ベータ線というのは飛距離が小さく、あまり人体に強い悪影響は及ぼさないだろうから、危険因子からカットした。この407ベクレルを一キログラム当たりの吸収線量に直して、荷電係数を乗じたのがシーベルトであるが、そういうことをしても、余り意味がない。ただ、カリウム40の放出する407ベクレルのガンマ線エネルギーのほうが、セシウム137の崩壊によって放出される407ベクレルのガンマ線エネルギーよりも2倍ほど強力であるということは覚えておいてよいと思う。




セシウム134も、同じセシウム元素としてカリウムと挙動を一にしていると見てもよいと思う。ウラン235の核分裂によって生成される率が極めて少なく、実質ゼロといってもよいレベルであるらしい。ほとんどのセシウム134はセシウム133が中性子を捕獲することによって生じるので、核分裂によって直接生じるものではない。そのセシウム133は、キセノン133のベータ崩壊によって生じるとされる。半減期は2年と短いが、一つの原子が放出する放射線エネルギーは倍以上となる。2年で半減するということは、2年たつと、放射能的脅威はセシウム137とほぼ同じになるということだ。福島原発事故の場合、放出されたセシウム134のベクレル数はセシウム137のそれよりも若干少なかったということになっている(*)。核分裂収率に関していえば、セシウム133と134の両者を加えた収率は6.79%となって、セシウム137の6.09%よりも多いため、セシウム133が中性子捕獲によりセシウム134となる度合いにより、核分裂生成物の割合が異なってくる。もしも、セシウム133が総てセシウム134に変化したとするならば、セシウム134の割合は137よりも1割ほど上回ることになる。その場合、セシウム134のベクレルはセシウム137の15倍以上となるはずである。しかし実際に観測されたセシウム134はその10分の1以下であった。たぶん原子炉事故後、核分裂反応のほうは早期に終了したので、排出される中性子の数が少なかったためだろう。

(*)チェルノブイリ事故との比較↓
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%83%8E%E3%83%96%E3%82%A4%E3%83%AA%E4%BA%8B%E6%95%85%E3%81%A8%E3%81%AE%E6%AF%94%E8%BC%83
18対15でセシウム137のほうが多かったというが、まあ同じだと考えてよいと思う。福島周辺の土壌中のベクレル数を調べてみても、セシウム137のほうの崩壊カウントのほうが若干多めに出ているが、これは日にちがたって、セシウム134が電子捕獲でキセノン134に変化して安定核種になったからだろう。セシウム137のほうは陽子を一つ増やしてバリウムになるが、セシウム134のほうは陽子が一個減ってキセノンとなる。


核分裂主要三核種は、①ヨウ素131,②セシウム137,③セシウム134である。この3種のものは風に載り遠く運ばれて人体に吸収され、蓄積するからだ。このうちヨウ素131の有効半減期はおよそ7日間と短いので、もう既に驚異はとっくに過ぎて話題にもならない。残り2つのものはいまだ体内蓄積が続いている。もちろん、毎日一定量を摂取し続けたところで、ある時点で平衡に達し、それ以上は吸収と排出のバランスがつりあう状態になるので、いつまでも蓄積されるというわけではない。「平衡に達したときの体内量(ベクレル)は、1.44×一日当りの摂取量(ベクレル)×有効半減期(日)」で与えられる(*)。セシウム137の物理的半減期は30年、生物学的半減期は3ヶ月くらいだ。有効半減期も3ヶ月以内だ。毎日10ベクレルのセシウム137を取り続けたとすると、1440ベクレルほど蓄積するという勘定になる。仮にセシウムがカリウムと同じ挙動を示すならば、平衡に達するまでに充分体内に拡散しているはずだから、これはカリウム40のものと比較できるだろう。一般成人男性の60キロの人のカリウム40による体内被曝が400ベクレル位だった。カリウム40(有効半減期は2ヶ月程度)にしても上の計算式による平衡条件が当てはまるわけだから、大食いの人ほど体内被曝量が大きいということになりそうだが、現実にはカリウムの摂取量は食事ごとに大きく変動しているので、あまり計算どおりにはなっていないようである。

(*)有効半減期を一日毎の割合に直して、等比級数の合計値で体内の蓄積総量を積算するというやり方を使えば、かなり簡単な計算により答えが求まる。最初の日に取り込んだセシウム137をAとすると、翌日にはそのセシウム137は、0.5^(有効半減期の逆数)だけとなる。これを比数rとして、等比級数の合計式に代入すれば合計が求まる。初項Aを10ベクレルとすると有効半減期を100日とした場合の合計値は、およそ1440ベクレルとなる。関数電卓のある人は、10/(1-(0.5^(1/N)))とやって、Nをいろいろ変えてみると面白い。ここで本文の式にある144という定数の値が出たのはただの偶然の一致で、有効半減期を50日とすれば、半分の726ベクレルという値が出てくる。


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さて、セシウム137が崩壊してできるバリウムについてであるが、どうもこの物質に毒性があるため、体内摂取したセシウムがバリウムに変化するので危ないという意見を持つ人が最近ちらほらして来た。どうも原発事故による放射線障害に悩む人が出てこないのが気に食わないらしい。こういう話を組み立てる人というのは、別段当人が放射能漏れにおびえているわけではなく、自分の作り上げた話が他人の気を引いて注目されるのを喜んでいるだけだというケースがしばしばである。真実など自分自身で作り上げるものだと考えているので、客観的な事実などはどうでもいいのだが、大衆というのはそういう話のほうを面白がって聞くものだ。りんごが木から落ちるのを重力によるものとしたら面白くないが、見えない幽霊が下から引っ張っているためだとすると途端に人々の興味を惹くことになる。

バリウム↓
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%83%AA%E3%82%A6%E3%83%A0#.E5.8D.B1.E9.99.BA.E6.80.A7

硫酸バリウムというと、胃のレントゲン撮影では良くやるもので、年間に全国で1800人ほどの人が飲んでいるらしい。厚生労働省の発表では、1954年以降の60年ほどの間に、硫化バリウム造影剤を飲んだことにより、消化穿孔等を起したものは27件あり、そのうち4名の死亡例が報告されている。そのほかショックを起したものも18例あるそうだ。10万人中40件か50件はなんらかの異常が見られるらしいが、わずかに吸収される程度の不溶性バリウムの毒で影響を訴えたものはいないらしい。可溶性バリウムは反対に人体によく吸収されるが、微量摂取の場合と大量摂取の場合で、全く逆の反応を起すものと見られる。摂取量が増えるにつれ、徐々に毒性の面が堅調になり、神経系が適切に機能するためのカリウムチャネル(*)を阻害し始める。そのため不整脈、震え、筋力低下、不安、呼吸困難、麻痺などを引き起こすという。しかし、特定の臓器にだけ濃縮するようなことはないそうだ。また、大気中のバリウムの粉塵を取り込むことで、バリウム症という良性の塵肺症を起こす。水溶性バリウムの人体への許容限界は200ミリグラム程度だそうだ。

(*)カリウムチャネル↓
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%AA%E3%82%A6%E3%83%A0%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%8D%E3%83%AB
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もう少し日にちがたって、詳しいデータが出てきたらまた調べてみることにする。今までより放射性物質の総量は減少してきたとはいっても、それに反比例するように住民は無防備で街中を出歩くようになってきている。事故の3ヵ月後から半年後くらいは、体内被曝に関しては食事以外は厳禁であって、大気中の放射性物質は極力吸い込まないように十分取締りというのがあったが、今は比較的各住民の自由に任されてきている。マスクなどしないで街中を出歩く人が多くなったというのに、除洗などして放射能の埃を撒き散らしているので、まだどうなるか分からないからだ。


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この記事へのコメント

読者
2012年06月04日 20:06
バリウムの場合はカリウムチャンネルというより,カルシウムチャンネルに対する作用が問題になるでしょうね.
whitehand(管理人)
2012年06月05日 07:55
どうもコメントありがとうございます。
カルシウムチャネルの作用についてはどうだか知らないのですが、人間活動の上では、カリウムイオンとナトリウムイオンの移動をつかさどるカリウムチャネルのほうがより重要だと思ったので、カルシウムチャネルのほうは書きませんでした。(というよりどちらにしても、あまり良く知らないんですがね)。

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