森の散歩

アクセスカウンタ

zoom RSS 『白い死神』を読んで。

<<   作成日時 : 2014/08/24 07:05   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

1939年11月、第一次ソ連―フィンランド戦争(冬戦争)時代の英雄シモ・ヘイへ(1905−2002)の話だ。一人で542人(ウィキには「確認戦果505名射殺」とある)のソ連兵を狙撃したのが「死神」と呼ばれた所以なのだろう。実際にはサブマシンガンの名手でもあり、こちらも合わせると1000名かそれ以上を射殺したといわれている。本書の冒頭が「罪の起源」で始まるのもそうしたわけだろう。戦いの歴史は遺伝子に刻まれ、やがて必然的に国家というものを形作った。「国家の最も重要な使命は暴力の独占だ」というのが、筆者のペトリ・サルヤネンの主張らしい。身長152センチほどと小柄だったが、3,4秒に一回狙撃し、いずれも標的の頭部を打ち抜いたそうである。写真は1940年に撮影されたものだが、顔が歪んでいるのは、同年3月にソ連兵に頭部を打ち抜かれ、「頭(あごの部分だったようだ)を半分失う」ほどの重傷を負ったからだという。しかし35歳ほどでそのような大事故にあっても、その後60年以上も生きられたというのも彼の生命力の逞しさを物語っているところだ。

ヘイヘというのは日本でのカタカナ表記をする場合の通常表記で、実際は「ハユハ」のほうがより原音に近いらしい。


フィンランドというと、日本では北欧というイメージからなんとなく中立国という感じを受けるが、第2次大戦中は枢軸国として連合諸国と戦った。ドイツと結べば少なくともソ連に反撃できることから、「やむをえず」という同情的な意見がほとんどだが、スナイパー攻撃に対して碌な防衛戦術も取ろうとしないソ連司令部というのは何だろうかという疑問も感じる。ソ連兵の信じがたい行為は、すでに死体が山と積み重なりつつある場所へ、同一地点から飽きもせずにあらわれたことにも表れている。例えば日露戦争において、乃木司令官に従った日本兵のようにだと思う。民度の低い国民性だと自発性というものが全くなくなるのだろうか。一方で、ひょっとしてフィンランドも意外と狡猾で陰湿な国民性なのではなかろうかという思いもするのだ。仏教徒の国なら、攻めてくるソ連兵の生命にも配慮は払ったと思う。民族的にも言語的にもハンガリーなど東欧諸国に近く、北ゲルマンの北欧とはかなり距離を置いている。顔がアジア系というわけからでもないだろうが、日本とは明治時代から親交があったらしい。

本書には、ソビエト共産党の兵士がなぜ弱かったかということについてのヒントのようなことも書かれていて、どうやらそれは所属部隊が異なれば原則として治療を断られるという国家組織の体質にもあったようだ。そのため、ソビエト兵士の多くは、大規模な戦闘が予想される場合、腹部を負傷し消化中の食べ物による炎症が致命傷となるのを避けようとして、しばしば絶食ということを行っていたらしい。そのため、空腹による注意力散漫や判断ミスということがしばしば起こっていたようだ。

ヘイヘの属していたのは第12師団の第34歩兵連隊だった。33歳で徴兵されたのだが、もともと民間防衛隊に長いこと所属して射撃の名手として知られていた。大けがをしたのは、1940年の3月6日のことだった。ソ連軍が攻め込んできてから4か月しかたっていない。被弾したのは午後2時のことだそうだが、弾丸は国際条約で使用が禁じられているダムダム弾で、衝突すると内部の鉛が飛び散って損傷を拡大させる性質のものだったという。20mほどの至近距離から弾丸を受けたが、意識はしっかりしていて戦線からの脱落を強いられたことに対する不注意をひどく恥じ入っていた様子だったという。

全体を読みながら常に意外な気分がわだかまっていたのだが、どうも生命観に対する通念というものはその時々でひどく異なっているのではなかろうか。それも予想外の急激さで変化するようなのである。大衆の心変わりというものがいかに激しいかということをしみじみと感じる。統計的には、知能指数の標本が正規分布を示すことから、平均に近い人間ほど平均に近づこうとする傾向が強いものと推測される。まあ、大体人間を知能指数で3分割して、真ん中の者には全く主体性がないだろう。下の者は一応自分自身で考えようとはするが、生得的な回転に欠如しているので、結果休火山のようだ。

おしまいの方に「狙撃の歴史」というものが少々述べられていて、そもそも狙撃の始まりは独立戦争時にアメリカ軍がイギリス軍に対して用いたものが嚆矢で、長距離からの狙撃の最高記録も、この本が書かれた時点では、湾岸戦争時に米海兵隊がイラク人将校を1.8キロの距離から仕留めたものだとある。ただし、優れた狙撃兵というものはしばしばスコープを使わないそうだ。レンズが光って敵に発見されやすくなるという。戦闘というものが避けられないものであった以上、最小の犠牲で最大の効果をもたらすものが狙撃だとあるが、どうもそれほど有効なのかちょっとわからない。いくら武器の性能が向上したとしても、厚さ20センチの重戦車の装甲を貫通するライフル銃が開発されるとも思えない。

筆者のサルヤネン氏もフィンランド人だからなのか、やはりソ連憎しの念が強いのかもしれないが、狙撃というものに最も注力したのはソ連であって、正式な狙撃部隊というものを連合国中唯一要していたのもソ連であった。これは「共産主義にエリートは不要である」とのスターリンの信条によるものだろう。男女平等にとらわれすぎたのか、女性の狙撃兵を多数採用したりしたのがたたって、人口の減少を招き、後に崩壊する一因となった。



白い死神 [ ペトリ・サルヤネン ]
楽天ブックス
アルファポリス文庫 ペトリ・サルヤネン 古市真由美 アルファポリス 星雲社発行年月:2013年11月


楽天市場 by 白い死神 [ ペトリ・サルヤネン ] の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル



冬戦争については2006年のころから知りたかったが、ちょっと個人の伝記という感じが強かったのが残念だ。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
『白い死神』を読んで。 森の散歩/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる