がんのフマル酸呼吸

フマール酸呼吸というのは、酸素がほとんどない環境で行う効率の悪い呼吸法で、回虫などが行うやり方だ。代謝の仕組みを1937年に明らかにしたドイツのハンス・クレブス(1900-81)に因んでクレブス回路ともトリカルボン酸回路(TCA回路)とも呼ばれるものの中間体から発生する効率の悪いエネルギー生産法らしい。

しかし、一方で、動物のエネルギー産生系には4段階あるという話もある。①酸化系、②解糖系、③核反応系、④光合成系へと段階的に高まってゆくという説から見れば、効率が悪いとばかりはいえない。これら4段階の能動的な産生とは別に、受動的な形で直接外部から熱を得るというのがあって、比較的暖かな地方の住民は生きてゆくために食料を得る必要があまりないということがあげられる。

①の酸化系のエネルギー産生はすべてミトコンドリア内で行われるということになっている。少なくとも、通常の①の段階はそうである。ミトコンドリアは太古の昔に生物と共生したものだというのはまず間違いのないところであるが、多細胞生物から脊椎動物を経て哺乳類や鳥類に至る進化の過程で、③の核反応系までは獲得したことが、教科書にはまだ載っていないらしいが、かなりの確率で想定されている。④はほとんど信じられていないが、太陽光の直視によってそれが可能出ると主張しているものが多く、また実際に不食を可能としていると思われるため、脳の巨大化によって人類だけに与えられた特別なシステムではないかと思われる。

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もう100年以上もかけて詳しく調べられたにもかかわらず、一つの細胞にミトコンドリアが数百個もあるのかそれとも一つだけなのかは分かっていない。外膜と内膜の二重の膜で囲まれていて、内膜は「クリステ」というひだ状の構造になっている。ミトコンドリア内部を「マトリックス」と呼び、ここで酸素を使って、グルコースや脂肪の中間代謝産物を分解し、そのエネルギーを内膜にあるたんぱく質複合体の働きによってATPに蓄える。ミトコンドリア内でできたATPは、ミトコンドリア外膜にある「ポーリン」というたんぱく質の穴を通って、細胞内のエネルギー活動のほとんどすべてに利用される。

糖代謝によっても脂肪代謝によっても、TCA回路に入る酸化過程は生じる(*)が、脂肪代謝によってはピルビン酸から生じる乳酸はできないが、乳酸には筋肉の興奮を持続させるという要素もあるようえ、脂肪ばかり食べていては疲れやすくなるようだ。乳酸の蓄積では筋肉痛と疲労が生じるが、力が抜けるようなことは起こらないようだ。
(*)糖代謝ではコエンザイムAとピルビン酸から、脂肪代謝ではβ酸化によってコエンザイムAと脂肪酸から、アセチルコエンザイムAができ、これがTCA回路の出発点となる。ウィキにはTCA回路の段階として10段階を挙げているが、1段回目がオキサロ酢酸で、2段回目がクエン酸であることはいずれも共通している。右周りに回って、左側の終わりのほうが、コハク酸→フマル酸→L-リンゴ酸となっていることも同じだ。中間地点あたりに、スクシニルコエンザイムAというのがあるのも共通しているが、その前の生成物が「α‐ケトグルタル酸」となっていたり「オキソグルタル酸」となっていたり若干異なる。

およそ人間にとって最も理にかなった見栄えのよい組み合わせは、2分割したものを3分割するというものだろう。つまり6分割であるが、そうそううまくは出来ていなかったようだ。多数派は8通りを採用している。もっとも重要な化合物は、オキサロ酢酸、クエン酸、α‐ケトグルタルさんの3つらしい。特にオキサロ酢酸とα‐ケトグルタル酸は、タンパク質と糖質を結びつける中間産物である。回転の始まりをオキサロ酢酸から始めているものが多いが、この化合物は回路の最終生産物であって、最初の反応で、ピルビン酸や脂肪酸から合成されたアセチルコエンザイムAと結びついて、クエン酸を作る。それでTCA回路はクエン酸回路と呼ばれている。


TCA回路は別段閉じているわけではなくて、あちこちに分岐点があって外に飛び出しているようだ。そうすると大分無駄が多くて、必ずエネルギーが計算通り多くできるという保証もなくなると思う。人は食べた分の3割以上は排斥するのがふつうであるというし、そのうえ吸収したものも細胞内で無駄に消えてしまうのだとすると、栄養学のカロリー計算などいい加減なものかもしれない。


さて、がんの中には、低酸素で糖も不足した状態で、増殖を続けるものがあるそうだ。そのようながんの代謝物のすべてを調べてみたら、コハク酸が増加していることが分かったそうである。これは、低糖・低酸素でもエネルギーを産生できるフマル酸呼吸に特徴的なことであり、TCA回路でいえば最後のほうであるが、途中の分岐にもある。

フマル酸呼吸は、回虫の呼吸として知られていた。大腸は低酸素・低糖の環境なので、そうした状況下でもエネルギーを作れる代謝経路が必要だったからだ。それで件のがんにフマル酸呼吸の阻害剤である虫下しを投与してみたところ、間もなくがん細胞は死滅した。あらかじめ見当をつけていたわけではないが、たまたまやってみたら、がんが回虫式の呼吸をしていることが判明したらしい。
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まあ、呼吸回路なんていうのは複雑なようでいて、ひっきょう人間の論理が当てはまるので何とかなるのだろうが、DNAだとかRNAといった小さ目なものになるともう理屈ではわからないところが出てくるのだろう。大体赤血球などといったはるかに巨大なものでさえも、車にたとえたらマッハの猛速度で毛細血管の中をきれいに通過する仕組みもよくわかっていないらしい。進化の過程で、すべての脊椎動物はヘモグロビン(*)を獲得したが、それはどうも免疫システムの強化に関係があるらしい。抗体は脊椎動物にしかなく、それ以外の動物は自然免疫しかもっていないからだ。セミなどの昆虫も、ミミズなどの環形動物も、ばい菌やウイルスに侵入されたら発熱することも出来ずにそのうち死んでしまう。脊椎動物は、長い試行錯誤期間を経て、酸素分子だけと結びつくたんぱく質の複雑な構造を作り出したが、進化のシステムが終わった段階で、酸素よりも強力に結びつく強敵が現れた。それが生命が地上に上がった後で出くわした火災によって生じる一酸化炭素だった。クジラが海に帰っても水中で呼吸できるようにはならなかったように、ヘモグロビンももう進化はしなかったようだ。それで酸素が豊富にある環境であっても、血液は一酸化炭素と固く結びつくので、動物は窒息して死んでしまうという奇妙なことが起こった。吸光度により血液中の酸素濃度を測定するパルスオキシメーターで一酸化炭素中毒者の静脈血を測定すると、極めて良好であるという表示が出、肉眼でもはるかに血色が良いように見えるそうである。濃度1000ppm(0.1%)を超えると、99.9%の酸素濃度であっても危険状態らしい。
(*)体内における赤血球の寿命は約120日だそうだ。最初は1919年にアシュビーというイギリスの女医が正常人で約100日と求めた。他人の血液を輸血して毎日どれだけ残っているかを数えるというやり方だ。今は放射性物質で簡単に測れるらしい。大体人体には20兆個以上の赤血球が存在するという。それで割り算すると毎日2000億個の赤血球が作られて、一日は86400秒だから、これを10万秒とすると、毎秒200万個うまれているという計算になる。日本人は最大でも年に200万人しか子供を産めないから、生まれる数からいうと赤血球のほうが人より長生きだということもできるだろう。毎秒200万個うまれるのが人間であったなら120秒で死なないと具合悪いからである。一方で、20兆人の集団国家として、これを人間並みに見ると、平均寿命100年として、2000億人死んだ時点がちょうど1年に相当する。うまい具合に、これがちょうど1日の時点だ。この場合だと、赤血球は平均120年生きることに相当し、やはり人間よりも長生きとなる。寿命の理由はセミと同じようなもので、エネルギーの元がなくなるためと考えられている。骨髄にとどまっている間はリボソームやミトコンドリアがあるのだが、網赤血球という状態を経て成熟して外に出ると、もうタンパク質合成も酸素呼吸も出来なくなって、ひたすら干からびるのみだという。セミよりも献身的に思えるが、赤血球は生命の定義には全く当てはまらない点で小惑星探査機ハヤブサに似ている。生命とはいえない赤血球を持つのは哺乳動物だけで、鶴も亀もみな生きた赤血球を持っている。


赤血球は脾臓でマクロファージによって破壊処理され、大部分が再利用されるそうだ。脾臓組織は特殊な血液の濾過装置であって、大体赤血球の直径の4分の1くらいしかない狭い血管を通らなければならない鬼門であって、老化して体が硬くなった赤血球はもたもたしているうちにマクロファージに壊されてしまう。赤血球の柔軟性のことを「変形能」とよんでいる。うまく変形できない遺伝性の病気のことを「遺伝性球状(楕円)赤血球症」という。マクロファージに貪食され処分されることを溶血という。マクロファージ内で、赤血球たんぱくの97%を占めると割れるヘモグロビンは、ビリルビン、グロビンと鉄に分解される。鉄の大部分は骨髄に運ばれ、グロビンはアミノ酸に分解され再利用される。ビリルビンは黄疸の原因となる。破壊は創造の入り口というわけか、抗体の産生されるのも破壊の場である脾臓だという。脾臓機能に障害を持ったものはちょっとしたインフルエンザでも重症化しやすいという。赤血球は白血球などと同じく骨髄で作られるということになっているが、あまり決めてかかると、後で偽りが発覚した場合の打撃が大きい。穴だらけの血管壁に絡まないように、うまく団子型に丸めて完成するのだろう。

溶血性貧血の場合の多くは、治療の目的で脾臓を摘出すると貧血の改善がみられるそうである。脾臓を通過する赤血球にとっては、様々な科学的修飾を被りやすい脾臓内部はよい環境ではなく、しばしば脾腫を生ずる原因となるための摘出であるが、これは赤血球の寿命が延びたためと考えられる。しかし溶血性貧血ではないものの脾臓を摘出しても赤血球の寿命は変わらないという。

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