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zoom RSS 『よくわかる痛み・鎮痛の基本としくみ』を読んだ。

<<   作成日時 : 2017/06/24 08:31   >>

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筆者は伊藤和憲という1972年生まれの人だが、2002年に明治鍼灸大学大学院の博士課程を卒業したとある。鍼灸大学など前からあったのか最近出来たのか聞いたことがない。いずれ医科養成機関が落ちこぼれだからこうなることは前々からある程度予測はついた。前々から痛みに関しては大変興味があったので、思い付きで取り寄せたのだが、このシリーズでは一番面白かった。

さて筆者は、端末受容器を発電所、神経を電線、脊髄を変電所にたとえている。いわれてみれば発電所だ。人体もその大部分は機械と変わらない。脊髄が変電所だといわれるわけは、いったん受け取った電気信号を化学物質に変えているからと書かれているが、これはいわば電線の節約のためだという。しかしメンテナンスの必要からではないかとも思う。

警告信号としての痛みは人間にとって必要であるが、慢性痛はそうとはいえない。近年慢性痛はめぼしい構造異常を全く伴わないものがますますその大半を占めるようになってきた。むしろ、昔は皆が、『肉体の変化がなければ慢性痛は生じない』という素朴な概念を共有していたがゆえに、慢性痛は構造異常を伴っていた。思考は物質化するからである。唯物論が蔓延する社会では特にそうだっただろう。ところが今のような精神的自由の時代ではそうではない。

痛みの信号を発生させる受容器は総称して「侵害受容器(痛覚受容器)」と呼ばれている。これらには2種類があり、1は高閾値機械受容器と呼ばれ、ある程度の強い痛みに反応する。例えば画びょうを踏みつけた場合の物理的な障害が発生したようなときのものだ。この受容器からの情報は主に有髄の「Aδ繊維」(*)を介して素早く大脳へ伝わる。これが一次痛という刺すような痛みだ。Aδ繊維は太く、C繊維の直径の数倍以上もあるそうである。一時痛が素早いのはミエリン鞘のあるためで、この構造体があると、痛みにより発生した電気信号は、電線の上を順番に伝わるのではなく、コイルに包まれたミエリン鞘の上を飛び跳ねながら伝わる。ミエリン鞘の主成分は脂質であるため、絶縁体の役割を果たし、脱分極を起こさないのに対し、ミエリン鞘の間隙のランビエ絞輪では脱分極を起こす。そのため1,2ミリの狭い空間を電気が飛び交う。これを「跳躍伝導」という。2は「ポリモーダル受容器」と呼ばれ、熱刺激、化学刺激、機械刺激などに反応するが、無髄のC繊維を介して脳の各部を寄り道しながらゆっくりと伝わる。これが2次痛というもので、鈍くてどこが痛いのかよくわからない痛みだ。炎症が慢性的に起こったり、神経が損傷すると、普段痛みとして知覚されない種類の刺激まで痛みとして認識されてしまう。
(*)神経はその太さによりA、B、Cの3つに分類され、A神経はさらにα、β、γ、δの4種類に分けられているそうだ。あまり細かく分けて、正常だ異常だと騒ぐのは一種の差別感情のようなものだと思うが、Aαは筋紡錘からの求心性情報、骨格筋支配を受け持ち、痛覚繊維の5倍の15ミクロンほどの直径を持つ。伝達速度も最大の毎秒100メートルという速さを持つ。通常の痛みはAδで毎秒15メートル、C繊維だと毎秒1メートルでしか痛み信号は伝わらない。あまり激しく痛みが伝達しても困るわけだ。触角を伝えるAβ繊維が痛みを伝えるアロディニアという病気があるそうで、服を着るだけで痛むという。


脊髄へ伝えられた痛みは、脊髄後角で介在ニューロンを経由して別の神経にのり、対側の白質にある前側索へ向かう。ここから主に脊髄視床路という部分を通じて脳に向かう。痛みの本質を伝えるのはこのうちの新脊髄視床路と呼ばれる太いパイプらしい。この部分の痛覚は直接視唱に向かっているという。他方旧脊髄視床路のほうは脳幹の様々の道を通りながら視床へと向かい、その後も大脳辺縁系で不快のイメージなど感情的成分を加えられるようだ。痛みの情動的部分だ。これがいわゆる「気のせい」とされる痛みだろう。心の痛みと肉体の痛みとが同等である部分である。かなり驚くのは、こうした頭の中で作られる幻想的な気のせいによる痛みのほうが、実際の局部における急性痛よりもしばしば大きいということである。例えばマクギルの疼痛質問票によると、慢性腰痛の痛みは骨折(*)や打撲傷よりも痛いとされる。これだとどうも慢性腰痛のほうがぎっくり腰などの急性腰痛などよりも痛みが激しいようだ。幻肢痛のようなものさえ、骨折よりも痛みが激しい。切り傷より痛みの軽いものは関節炎くらいしかない。無意識が心の痛みを物理的な痛みよりも過大視しているらしいということがよくわかる。うつ病など過度な心の不安によっても痛みが発生する。痛み情報を伝える神経を抑制することが出来るセロトニンの分泌量が減るためだという(セロトニンは中枢では痛みを抑制するが、端末では発痛を促すらしい)。概して能天気なものほど慢性の痛みは生じないようなものらしい。痛覚神経の太さと、通常の筋紡錘などの神経の太さの比を考えた場合、勘違いの痛みのほうが10倍も痛いというのは容易に推測ができる。電流の強さによる刺激で痛みの度合いを測定する危惧もあるが、これは市販の体脂肪計などと似たような仕組みで、客観性を十分に有しているともいえない。
(*)骨折といっても、現実には強い打撲を伴わなければ通常骨折を伴うことはないと思うが、骨粗しょう症の人が骨折を起こしても大した痛みを伴わないところを見ると骨本体にはさほどの侵害受容器はないらしい。疲労骨折などに至っては無痛であるらしい。ただ骨髄腔に多少の侵害受容器があるだけだというが、骨膜には多く存在している。

組織が損傷すると、細胞内からはカリウムイオンや水素イオンやATPなどが流出し、受容体と結合することで侵害受容器を興奮させる。そして血中からも痛み物質のブラジキニンを作り出したり、血小板や肥満細胞からセロトニンやヒスタミンが放出されることで痛みを起こす。これが障害を受けてから30秒から1分もたってからやってくる我慢の出来ないいわゆる第3の痛みと私が読んでいるものの主因かと思う。場所など特定できなくても、それは神経のほうでやってくれるのでどうでもよいのだ。

しかし、こうした侵害受容性疼痛というのは実際はそれほど大した痛みは発生させないのが普通のようだ。それよりも平均的に大きな痛みを伴うのが、神経障害性疼痛と、心因性疼痛である。日本では今頃になってようやく心因性疼痛がおそらく最大の痛みの発生源であることが注目されるようになってきた。前にも言ったが、「気のせいだ」といわれて『冗談じゃない』と思う患者がいるというのがその証拠だ。気のせいによる痛みが最大のものであるという通念が一般化すれば、そうした言葉による思考はまず生じない。脳からの命令によって局部に炎症を起こしたり神経を傷害させたりしている。思考は物質化するという現実の証拠なのだが、自分で出している命令に自分で気が付かないとはなんと無明なことだろうか。

慢性痛の原因として、神経が長期間興奮することが続くと、神経からの刺激がなくてもシナプスが興奮してしまうことをあげている。たいていは外傷がきっかけだと思うが、中には純心因性のものもあるだろう。「無意識は自由に肉体を操作できる」からだ。こうした長期増強(LTP)とは逆に、長期抑制(LPD)というのもあるそうだ。慣れにより痛みに対する免疫ができるようなものだろう。


痛む個所を手でさすると痛みが和らぐシステムについても、日本では今で迷信だと信じられていたころの1965年には「ゲートコントロール説」というものが発表されている。現在では若干の修正の元に使われているという。今でも日本の古いタイプの意志は信じないだろう。そういう勉強不足の医者もいる。出来が悪くても医師免許を取り上げられることはないらしい。

脳そのものにも強力な鎮静系がある。1980年前半だったか、脳内麻薬(*)の話をしたら、「モルヒネより強力なものなど自然にできるわけがない」といわれたことを思い出す。まだ日本はそんな時期だった。経済さえ先んじれば後のことは総じて無視するという、今の中国よりもひどいといってよいころだった。のど元過ぎれば不都合なことは総じて忘れる。熱しやすく冷めやすいのは隣の韓国とうり二つだ。こんなに似通った国民性もない。韓国よりも沖縄のほうがエキゾチックなくらいだ。
(*)内因性オピオイドまたは内因性モルヒネ様物質といって、エンケファリン、ダイノルフィン、βエンドルフィンがある。

脳内でドーパミンとノルアドレナリンを放出するニューロンの集団を「A」、セロトニンを放出する集団を「B」とし、脳の後ろ側から順番に番号を振っている。それらのうち、脳内鎮静の中心的な部位が「中脳中心灰白質」(PAG)というところで、下降性疼痛抑制系の起始核だという。PAGからの脊髄への下降経路は青斑核(LC)やその周囲(A5,A7)を走行する群と、延髄腹内側部(RVM)を走行する群の2種類あって、前者がノルアドレナリンを、後者がセロトニンを精髄で放出して痛みを抑えているそうである。鍼灸治療や運動療法などにより痛みが治まるのは下降性疼痛抑制系が賦活するためだと考えられているという。単なる痛み止め効果であって、根本的な治癒ではなさそうだ。痛み止めの効果のみだから、腰痛体操などしても、予防効果ゼロであるわけだ。効果ゼロということはやってもやらなくても同じということではなくて、腰痛体操がプラスに働く人がいるということは、体操をして逆に悪化してしまったという人が同じくらいいるということだ。早い話無意味なのである。もしかすると、ランナーズハイと同じ種類のストレス鎮痛に過ぎないとも考えられる。そうすると、慢性腰痛に対してはストレスは逆に痛みを引き起こすことになり、急性の場合とは逆に腰痛を悪化させることになりそうだ。

むしろ、急性の痛みは組織の炎症のためであって、これは組織の修復にとって必要なものであり、鎮静の行為はこの修復を阻害するものだから、できうる限り痛みを抑える行動は避けたほうがよさそうである。

思考力の不十全な人には単なる笑い話だと思われるような方法にも、きちんとした医学的根拠があるのだという。歯が痛いとき、頬をつねったり手をつねったりする方法だ。こうした痛みで痛みを抑える、いわば毒を以て毒を制すといったやり方は「広汎性侵害抑制調節(DNIC)」と呼ばれているが、下降性疼痛抑制系のように長時間作用しない。DNICの起点は延髄背側毛様にあるとされる。バカはこうした話を聞いて大笑いするだろう。

ガムをかんだり、日光に当たることも、痛みを緩和するというが、これは別の仕組みで、セロトニンが増えるからだという。

局部に微弱な電気刺激を与えて痛みをとるやり方(経皮的神経電気刺激法(TENS))や、さらに効率よく痛みをとる方法として脊髄電気刺激法(SCS)や脳深部刺激法(DBS)、大脳皮質運動野刺激法(MCS)が開発されたそうだ。TENS以外は手術により電極を脊髄または脳に直接埋め込むもので、不可逆的な治療のため注意が必要だという。SCSは1967年に開発され、すでに世界中で数十万人に施術されているというが、先日読んだ『腰痛は脳の勘違いだった』にもどこにも書かれていない。多分腰痛くらいではだれもやらないのかもしれない。DBSにしろ、1990年代から施術されていて、パーキンソン氏病患者などに施術されているというが、まったく聞いたこともない。中枢神経に電線をつなぐというのは細菌やウイルスの移動路となりそうだから、ひっきりなしのメンテナンスが必要なのかもしれない。

昔は鍼灸やツボというと、非科学的な迷信の産物などとやたら馬鹿にされていたものだったらしいが、今ではちゃんと医学的な理由もはっきりとわかっている。内臓―体性反射の逆で、体表の刺激が内臓に影響をもたらすことのあるものである。逆だから「体制―内臓反射」という。皮膚側のほうが感覚神経が多いので、脳が錯覚する現象を利用するものだそうだが、まさに心が肉体を治療するの見本だと思う。






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