対空砲は当たらなかったのか

戦艦の主砲には徹甲弾のほかに三式弾というのがあって、高射砲と似たような仕組みだ。高度3千メートル付近を飛行してくる航空機に命中すれば、一度に数十機を撃ち落すことも可能であって、そういう事例が一件も記載されていないというのはどういうわけなのであろうか。今のミサイル迎撃システムなどの技術からしたら、戦闘艦に飛行機で向かってゆくことなど無茶苦茶な作戦のようにしか思えない。またもともと対空砲として開発されたものがなぜ活躍しなかったのかもよくわからない。いくら航空機が速いといっても、100メートル1秒はかかるだろう。しかも大きさもそこそこあるものだ。何かすぐ当たりそうな気がするのであるが、当たらなかったのだろうか。

攻撃機が発する衝撃波か何かのせいなのだろうかとも思うが、ジェット機もなかったし、衝撃波が前方に起こるとも思えない。水しぶきのせいかと思っても、そんなに上空まで水しぶきが上がってくるはずもない。

その昔、大和を目標とした投爆訓練というのがあったらしいが、「こんなでかくて舵の利きも悪いものならのならどうやっても当たる」と対空砲火がなければ100発100中だったそうだ。高度400メートルで爆弾を投下するころには照準器をはみ出すので、外しようがなかったという。「余計なものを作ってくれたものだ」と飛行機乗りはみなあきれ返ったそうだ。なぜ航空機からだと100発100中で、船の方からはあまり当たらないのだろうか。高速で動いている方が運動エネルギーが大きいから有利だというわけでもあるのだろうか。

「航空機同士なら狙いやすいのだが、地上や艦上からは難しいのだ」という声が聞こえてきそうな気がするが、それもどうもおかしいと思うのである。

大きさを考えてみると、これは面積に注目すればよいから、大体長さが飛行機の25倍、深さなどが20倍。そうすると戦艦のほうが500倍大きい。500発に1発は当たってもよさそうに思える。備え付けの機関銃が100個以上ありそうだから、100機くらいで攻めてきても全部落とせそうな気もするのだが、やはり運動量の違いなのか。同じ重さの車同士の正面衝突でも、大体速く走っている方が被害が少ない。まあ、たまに雷撃機の操縦ミスで、戦艦の横腹に衝突して木っ端みじんになった例はあるらしい。それなのに、こちらの銃座の装甲版は弾数が制限されている敵機の機銃掃射でぼこぼこなのに、銃身が焼け付くまで連射しても向こうには当たらないというのはどう考えてもおかしいではないか。敵機めがけて撃っていたとしか思えないが、そんなことは訓練で習得していたはずだ。大体海軍では照準めがけて発射などということはやってなかったのが普通で、飛行機を打つ時だけ敵めがけて発砲したとも考えにくい。向こうも当たらないように上下左右あちこち移動しながら接近してきただろうが、そうそう器用なこともできなかったようにも思う。
(*)シブヤン海に沈んだ最後の日に武蔵の猪口艦長は「対空射撃に関しては各艦とも下手であった。乱射がひどすぎ、遠距離射撃や追い撃ちばかりしている」などと書いているそうだ。ドイツ軍のハンス・マルセイユのようにみこし射撃の名人ばかりだったなら、さっさと全機撃墜していたものと思う。やはりいくら訓練していても、実戦となると頭に血がのぼって狙い撃ちしてしまうのだろう。ミッドウェイ戦において、圧倒的に有利な大艦隊を有しながら、予期せぬ敗北の打撃が大きすぎて、それ以降は全くパッとしなくなった感じであったから、勢い士気も低下していたのかもしれない。

また、戦艦武蔵の高射長古賀祐光大尉は「航空機全盛の世の中にこの動きの鈍いバカでかい化け物を作るというのは頭がいかれている。」と着任時に演説していたというから、実際当たらなかったに違いあるまい。そもそも戦争の始まる6年も前に、横須賀航空隊副長の大西瀧次郎大佐は軍令部を訪れて、「マルサン計画で6万トンの巨艦を作るそうだが、こういう無用の長物は中止して、空母と航空機に変更してもらいたい」といったそうだが無駄であった。正規空母3隻と飛行機1千機が代わりに作れたそうである。

よくハリネズミのような対空砲火などと形容するが、ハリネズミだったならこれも100発100中で、だからかなりまばらだったのだと思う。どうせ当たらないならでかい散水機で、イカかタコの墨のようなもので目つぶしのほうがましではないかと思える。

調べてみたら、三式弾が爆撃機の編隊に命中した例もあることはあるものの、火災を起こす程度で、撃墜できるほどの効果はなかったらしい。意外と航空機の方もそこそこ防御はあったらしい。装甲車などとまではいかなかったにしろ、輸送トラックなどよりは頑丈にできていたのだろう。ウィキによると、日本軍三式弾の開発者は「大口径では効果抜群」だが、米軍では「花火のよう」で自動で空いた穴がふさがる程度でしかなかったともいう。しかしまた、10キロか20キロ離れたところに30機ほどの編隊を見つけたので三式弾で3機撃墜して追い払ったというケースもあったらしい。

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戦艦大和の最後新装版 一高角砲員の苛酷なる原体験 (光人社NF文庫) [ 坪井平次 ] - 楽天ブックスなども案外命中したらしいが、破片が当たったくらいでは爆撃機はめったに墜落しないらしい。まあ、直径1センチの徹甲弾が当たっても跳ね返すくらいだから、ばらばらの鉄くずに当たっても落ちるようなことはなかったのだろう(*)。実際は軍艦の大砲と同じくらいの命中率はあったかもしれない。それでも大体100発に1発だ。10発に1発なんか当たるはずもない。破片が命中しても撃墜できなかったものは「命中率」としてカウントされていないだろう。そうするとよく1000発とか1万発に1回などというのは嘘だと思う。日本軍では口径の大きいものを「対角砲」、小さいものを「対空砲」「対空機関砲」などと呼ぶ傾向があったようだ。
(*)ウィキには、B-29について、「機体は軽量ながら強靭な装甲版に覆われて防御力も高かった。日本軍の戦闘機や対空砲火で無数の弾痕や高射砲の破片痕が開き、中にはそれが機体上部から下部に達するような大穴であったり、尾翼の大半が破壊されたりしても、マリアナ諸島の飛行場まで自力で帰還し、修理を終えて再出撃することもできた。」などと書かれている。これを見ると、相当当たったような感じもする。当たっても直撃弾でもない限り大したこともなかったのだろう。

そうしたことを考えると、一発当たっただけで撃墜した例などまずなくて、10発か20発当たってやっと落ちたに違いない。そうすると、命中率自体はかなり高いだろう。十数発のうち一発命中したが、100発も撃たなくては撃墜できなかったものと思う。確かに対空砲は相当命中していただろう。

これも後講釈のようなものかもしれないと思うのがVT信管で、あれで日本軍の神風特攻隊はみなやられたなどというが、これはゼロ戦などの防御が弱かったためで、防御力の強い飛行機であったなら撃たれても墜落はしなかっただろうとも思うのである。「マリアナの七面鳥撃ち」などというのは、攻撃機がまっすぐにしか飛んで来ない、速度も調節できない、機銃も撃てない未熟な飛行士だったからというのが最大の理由で、VT信管の威力そのものは通常弾の数倍程度だったようでもある。爆発して10個ほどの破片を振りまく程度だと、パイロットがベテランなら、別にバランスを失って海面に激突するようなこともなかったとも思う。それに近代戦ではVT信管は妨害電波で自爆させることが出来るので、かえって旧式のものの方が効果的だともいう。大体敵機の手前で爆発分解してしまってはわざわざ攻撃力を分散させてしまうことになるので、防御力の高い機体にとってはかえってありがたいことにもなりかねない。現代の爆撃機には当時のような装甲はないらしいが、速すぎてあたらない。その代わりまぐれでも当たれば一発で落ちるだろう。高射砲でも落下速度が雨よりも遅いような弾幕が作れれば威力抜群とも思う。

それでも戦艦など大型戦闘艦の場合は、近くまでくるものだから、相当数撃墜したという。一方的にやられたわけでもなさそうだ。どうも爆撃機や、まして攻撃機で水雷攻撃するなど正気の沙汰とも思えない。艦爆で1割、艦攻で3割は最低やられる。よく攻撃できたものだ。運に左右され、場合によっては敵機の半数近くを撃墜したこともあるそうだが、あまりあてにならない。しかしそんな状況で向かってくるとは、戦闘員というのは無我夢中で例えば弾に撃たれたり大砲に顔の半分を吹き飛ばされたりしてもだいたいにおいて痛くもないというから、考え方も夢みたいなものになっているのだろう。

ラバウル高射砲体にもあったが、アメリカの戦闘機乗りはよく単発で特攻をやりに来たそうである。日本軍人は命令されなければ特攻は出来ないのに、向こうの兵士は命令違反の特攻を自発的にやる。それが恐ろしくも、頼もしくもみえたそうだ。やはり特攻精神の兵でなければ、飛行機で戦艦に立ち向かうということなどできない。

当時の対空砲というのは、高射器の探知した敵編隊のデータを下部の高角砲発令所に送り、そこからの指令で敵機に照準を合わせる。そこから自動で各砲塔の追尾装置に座標が送られてくる。だから普通は外など見ないで射撃した。射撃しても当たったのか当たらないのか撃った方は全く分からない。ただ指令所のほうが先にやられた場合は照準孔を開いて外を見る。それで撃墜した正確な数は大体曖昧であるはずだ。しかし照準を合わせたなら当たるはずがないが、本当にそういう射撃を行っていたかもしれないと思わせる言葉が、「弾幕を張るというのは相当の効果があった」という証言だ。弾幕とはメクラ射ちのことに等しいようなもので、照準を合わせるなら皆外れるので、この方がよほどましなのだが、そんな子供でもわかりそうなとろいことをやっていたのかかなり疑問だ。

歴史像というものはどうしても時代の波に乗ったものの評価が大きくなるもので、現実の戦闘ではアメリカの戦闘機なども対空砲火で穴だらけであって、無傷のもののほうが少なかったのだろう。むしろアメリカ軍パイロットが勇敢だったということの方が大きそうだ。勇敢で、動作も機敏だったのは開戦当時からだったが、精度だけは日本の方が上だったらしい。真珠湾奇襲ではたちまち対空砲火の配置についたというが、さっぱり命中しなかったらしい。らしいのではなくてこれは確かなことだ。それでもかなり弾が当たって応急修理したり廃棄したりの機は少なからずあったという。日本の航空機も案外丈夫ですぐには落ちなかったようでもあり、何か言われていることとだいぶ違うので何が本当だかわからない。開戦当初米軍の艦砲射撃の命中精度が低かったことはまず確かなことであって、どうしても射撃では太刀打ちできないということでやむを得ず機動部隊で勝負することになったらしいが、その米軍の対空砲火でさえこれだけの命中率だ。日本軍に銃撃ちの職人がいなかったのが撃墜の少なかった原因だろう。


それで結局思うに、対空砲が駄目だというのも、案外これは高射砲が駄目だったことからの連想で、きちんと訓練すると同時に、銃の威力をもう少しアップすれば破壊率100%近い大脅威だったのではなかろうかなどと夢想するわけである。高射砲がだめだったといっても、5個か6個くらいのデータを入力すれば後は自動で発射するというもので、弓矢かなんかのように勘で撃っていたわけでもないが、現代科学の遅滞のためにすぐ昔も原始的であったと思う人が多いようだ。力学に関していえば、19世紀も今も大して変わらない。まして20世紀の半ばと今ではまるで違いがないといってもいいくらいだ。で、技術的には当時のほうがむしろ進んでいた部分もあるだろう。

特に日常的な分野で実感するのが、現代の最新式のコンピューター連動の研磨機が1ミクロンの凸凹を検知できず、反対に人間の名人は難なくそれを感知できるという点だ。それに木造建築にしても、明治、大正時代に建てたものは100年、150年と当時のまま残っているのに、最近のものは30年で土台が腐ってしまうというのがどうもしっくりと来ない。各種スポーツなどでもそういうことはいえる。コンピューターで絶対不可能といわれたことも、訓練と気合で乗り越えている。それから、30年以上も前から気になっているのが、話は違うが、「なぜオーケストラに指揮者と演奏者が必要なのか」ということだ。コンピューターで計算して一つ一つの音を合成させてCDにまとめるのとどこが違うのかということである。演奏不可能な新しい楽器も多数創作できるはずなのだが、へんてこりんなわうわうしたものしかない。今の時代になっても職人にかなわないのだろうか。

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この記事へのコメント

番春
2019年12月23日 17:08
対空射撃と対空火器の権威である乾先生(@samurai__inui)の解説を読むことをおすすめします。
播田 安弘
2020年02月23日 15:27
急降下爆撃機の未来位置について
放物線の運動方程式からは
初速V0,時間t、加速度α(旋回時の加速度αとgの合成加速度です)
t秒後の未来位置Y=V0・t+1/2α・t^2 となります。
すなわち急降下爆撃機が例えば4gの旋回加速度で旋回しながら急行下爆撃したとしますと、単純未来位置はV0・tですが4gの旋回加速度が加わると
未来位置は1/2α・t^2 だけ変位します。
急降下時の速度が時速400km(秒速111m/s)時、旋回加速度が4gが加わったとすれば、3秒後にはV0・tで333m移動し、旋回加速度による変位量は1/2・4・9.8・3・3=176mとなり、射撃式指揮装置で算出したV0・tである単純未来位置を狙って撃っても全く当たらいことになります。

日本の射撃式指揮装置には加速度迄検知する機能はなかったと思います、このため旋回していない水平爆撃機なら当たる可能性があると思いますが
実際のところはめくら撃ち同然と思われますが、どうでしょうかね?

米国のP51ムスタングの後期型では自機の加速度を検知して、弾丸の未来位置を計算し、照準器を修正をしていました。私は以前フライトシミュレータを持っており、空戦ゲームをしていましたが、P51ムスタングにはこの照準器が付いていました。無論敵機の旋回加速度分の見越し射撃は必要ですが、自機の加速度は考慮しなくていいので、P51ムスタングでは13mm機銃をばらまくとよく当たります。
逆に零戦では50m位接近して20mmを打つと、羽が半分くらい吹っ飛びグラマンも落ちますが、7.7mmでは操縦士に当てない限り、なかなか落ちません。零戦では逆に13mm機銃が当たるとすぐ火を噴き、可哀そうになります。(ビルゲイツが力を入れて作ったとされるマイクロソフトのコンバットフライトシュミレータの太平洋版)

管理人
2020年02月24日 07:42
どうもコメントありがとう。書き込みスタイルが変わってから初めて返答します。

対空砲火は近ければかなり当たっているようです。100メートル以内の距離であれば、旋回しても航空機の長さ以上まで回避できないくらい接近していると思いますので、かなり当たっていたように思うのです。

実際B29などは対空砲の穴だらけで、胴体を貫通して大穴を開けたようなものまであったそうですが、嘘か本当かは知りません。